インターネット上のマネー系記事やSNSでは、「社会保険料を引かれると手取りが減って大損する」「130万円未満に抑えて親や夫の扶養に入り続けるのが最も賢い」といった言説が定説のように語られがちです。しかし、この主張には重大な盲点が存在します。
パートやアルバイトで働く層を悩ませる106万円の壁と130万円の壁について、実態を整理する必要があります。106万円の壁とは、週所定労働時間20時間以上、月額賃金8.8万円以上などの要件を満たした際に勤務先の社会保険へ加入義務が生じる基準です。一方、130万円の壁は、税法上ではなく社会保険上の扶養から完全に外れる基準を指します。
確かに年収が106万円を超えて社会保険に加入した初年度は、健康保険料と厚生年金保険料が差し引かれ、年間約15万〜16万円ほど「手取り」が目減りします。ネット上で「働き損」と騒がれる所以です。しかし、これをもって「損」と断じるのは短絡的に過ぎます。
第一に、手取りが減る代わりに本人は将来の厚生年金受給権を手に入れます。仮に月収9万円で20年間厚生年金に加入し続けた場合、将来受け取れる年金額は年額約12万円(生涯受給)手厚くなり、万が一の障害時には「障害厚生年金」の対象にもなります。国民年金のみの障害基礎年金(1級・2級)と異なり、より軽度の障害3級まで手厚くカバーされる点は大きな強みです。
第二に、パート社会保険適用拡大は2026年最新の法改正論議において、さらに小規模な事業所へと段階的に広げられています。政府は企業規模要件の撤廃を進めており、「扶養内に留まって働き控える」という選択肢そのものが制度的に狭まりつつあります。目先の手取り数万円を守るために就労時間をセーブする行為は、長期的なキャリア形成や自らの年金資産形成を放棄するリスクと隣り合わせです。