役職の序列が厳然として存在する一方で、法的な観点からはまったく異なる実態が浮かび上がります。日本の会社法(平成17年法律第86号)の条文をいくら精読しても、「専務」や「常務」という文言は一切登場しません。
会社法が規定する株式会社の役員機関は、主に「取締役」「代表取締役」「監査役」「指名委員会等設置会社における執行役」などに限定されています。法的に見れば、専務取締役も常務取締役も、肩書のない平取締役も、すべて「対等な1名の取締役」に過ぎません。会社法第362条が定める取締役会においては、専務であろうと常務であろうと保有する議決権は等しく「1人1票」であり、専務の1票が常務の2票分として扱われるような法特権は存在しないのです。
では、なぜ世の中に専務や常務が存在するのかといえば、会社法第349条の枠組みに基づき、企業が定款や役員規程などの社内ルール(内規)によって便宜上定めている「役付取締役(やくづきとりしまりやく)」だからです。社内外に序列や担当職務を分かりやすく示し、業務執行の指揮系統を整えるための実務上の慣習に由来しています。
ここで極めて重要になるのが、代表取締役との違いです。対外的に会社を代表し、契約締結などの単独決裁権を持つ「代表権」を有しているかどうかは、肩書とは切り離して確認しなければなりません。多くの大企業では、社長だけでなく専務にも代表権を与えて「代表取締役専務」とするケースが見られますが、常務に代表権が付与される例は比較的少数です。ただし、法的には「代表取締役常務」を置くことも可能であり、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を確認しなければ、真の業務執行権限と法的責任の所在は判別できません。