咳をした瞬間に頭痛が誘発される最大の理由は、「胸腔内圧・腹圧の急激な上昇」とそれに伴う「頭蓋内圧(脳圧)の急変動」にあります。激しく咳き込むと、胸やお腹に強い圧力がかかり、心臓へと戻る静脈の血流が一過性に滞ります。その結果、脳から血液を排出する静脈系にも強いバックプレッシャー(逆圧)がかかり、頭蓋骨の内部を満たす脳脊髄液や血液の圧力が瞬間的に跳ね上がるのです。
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)において、このメカニズムで起きる頭痛は大きく2つに分類されます。1つは検査をしても脳に明らかな異常が見つからない「原発性咳嗽性頭痛(げんぱつせいがいそうせいずつう)」、もう1つは頭蓋骨の中に存在する病変が引き金を引く「二次性咳嗽性頭痛」です。
良性である原発性咳嗽性頭痛は、40歳以上の男性に比較的多く見られ、咳やくしゃみ、力みなどをきっかけに突然両側または後頭部に強い痛みが走り、通常は1秒から2時間以内に痛みが軽減していきます。しかし、医療機関の臨床データによると、咳に伴う頭痛を主訴に受診した患者のうち、およそ40%前後に脳や頭蓋底の構造的異常(二次性頭痛)が認められたという報告があります。つまり、「いつもの風邪のせいだろう」と決めつけるのは、統計的にも極めて危ういギャンブルと言わざるを得ません。