全国の地方議会選挙を見渡しても、2021年1月投開票の戸田市議選ほど世論の耳目を集めた例は稀です。金髪に特攻服姿という異色のスタイルで挑んだスーパークレイジー君(本名・西村斉応)氏が、912票を獲得して26人中25位で初当選を果たした一報は、SNSを中心に大きな旋風を巻き起こしました。
しかし、歓喜の当落速報からわずか数日後、事態は急転直下の展開を見せます。市民から「市内に居住実態がないのではないか」という異議申し立てがなされ、戸田市選挙管理委員会が本格的な調査に着手したのです。当時、記者会見場や取材陣の前に現れた同氏は「アパートを借りて生活していた」と身の潔白を主張し、選管関係者とのやり取りを録音した音声を公開するなど泥沼の攻防へと突入しました。
公職選挙法第9条および第10条において、地方議員の被選挙権には「引き続き3カ月以上、当該自治体の区域内に住所を有すること」が厳格に義務付けられています。戸田市選管による調査報告書および後の東京高裁・最高裁判決の記録を検証すると、当選無効を決定づけたのは極めて冷徹な「生活インフラの数値データ」でした。
本人が拠点と主張した市内アパートにおける電気・ガス・水道の使用量は一般的な単身生活者の水準を大幅に下回っており、深夜から早朝にかけての生活形跡がほとんど確認されませんでした。さらに、日常的な買い物や飲食のレシート、携帯電話の通信履歴の大半が東京都内を示していた事実が浮き彫りとなったのです。「住民票を移して賃貸契約を結んでいる」という外形的な事実だけでは不十分であり、客観的に起居・就寝を行う「生活の本拠」が戸田市内にあったとは認められないとして、2022年に最高裁で上告が棄却され、当選無効が正式に確定しました。