和彫りにおいて背中という空間は、特別な意味を持つ。構図の骨格をなすのは、大きく分けて二つの表現様式だ。主役となる図柄の背景を雲や波、岩などで余すところなく埋め尽くす「額彫り(がくぼり)」。そして、モチーフそのもののシルエットを際立たせる「抜き彫り(ぬきぼり)」である。
額彫りは、背中全体を一つの壮大な「絵巻物」へと昇華させる。漆黒の墨が描く背景のグラデーションは、中心の絵柄に圧倒的な立体感と奥行きを与える。一方で抜き彫りは、余白の肌と鮮烈な図柄との対比によって、直線的な力強さを生み出す。どちらを選ぶのか。それは依頼主自身の美的感覚と、彫師との緊迫した対話の中で決まっていく。