日本国内で年間約1万数千人が発症し、死亡率や重篤な後遺症率が高いことで知られるくも膜下出血の原因の約85%は、ウィリス動脈輪周辺にできた「未破裂脳動脈瘤」の破裂です。
なぜ他の臓器の血管ではなく、頭蓋内のウィリス動脈輪にこれほど瘤(こぶ)が多発するのでしょうか。そこには脳血管特有の組織学的弱点と流体力学的ストレスが存在します。
第一に、脳の動脈は全身の動脈(筋肉や皮膚の血管)に比べて「中膜」と呼ばれる筋肉層が薄く、「外膜」も脆弱で、血管を外から支える結合組織が乏しいくも膜下腔に浮いている状態です。第二に、心臓から高圧で送り込まれた血液が、ウィリス動脈輪の鋭角な分岐部(Y字路やT字路)の内側に毎分数十回にわたって激突します。この物理的摩擦ストレス(ずり応力:Wall Shear Stress)によって血管内皮が損傷し、内弾性板が断裂して風船のように膨らみ出します。
脳動脈瘤の好発部位は、血流ストレスが最も集中する以下の3大エリアに集中しています。
1. 前交通動脈(Acom):全体の約30%
左右の前大脳動脈から合流・分岐する激しい乱流地点。小型でも破裂リスクが比較的高いとされます。
2. 内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-Pcom):全体の約25%
太い内頸動脈から細い後交通動脈が枝分かれする根元。瘤が拡大するとすぐ近くを通る「動眼神経」を圧迫し、突然のまぶたの下垂や物が二重に見える複視(眼筋麻痺)を引き起こす警告サインが現れることがあります。
3. 中大脳動脈分岐部(MCA bifurcation):全体の約20%
ウィリス動脈輪から外側へ分岐した直後のM1-M2分岐部。血流量が多いため瘤が大きく成長しやすい傾向があります。