淑美と郁子を執拗につけ狙った女の子の正体は、1年前にこのマンションの最上階(405号室)から忽然と姿を消した幼稚園児、河合美津子です。警察の記録では単なる行方不明事件として処理されていましたが、その実態はあまりにも無惨な事故死でした。
美津子の母親は奔放な性格で、幼い美津子を部屋に放置して男のもとへ通い詰めるネグレクト(育児放棄)を日常的に繰り返していました。ある豪雨の日、一人取り残された美津子は母親を探して立ち入り禁止の屋上へと迷い込みます。老朽化によってフェンスの鍵が壊れていた屋上で、美津子は給水塔の点検用ハッチを開けてしまい、足を滑らせて暗い水槽の底へと転落。蓋が閉まって出られなくなった美津子は、誰にも気づかれることなく、冷たく濁った水の底でもがき苦しみながら溺死していったのです。
作中で象徴的に登場する「赤い花がプリントされた黄色い子供用バッグ」は、美津子が生前肌身離さず持っていた遺品でした。このバッグは、美津子が自らの存在に気づいてほしいと願う無念のシグナルであり、同時に淑美の部屋の天井から漏れ出す水は、美津子の遺体が浮遊する給水塔から配管を通じて直接流れてきた「死の滴」でした。住民たちが日々料理や洗面、うがいに使っていた生活用水の供給源そのものが、幼い少女の墓場と化していたという設定は、観客の日常感覚を底底から揺るがす生理的嫌悪感を生み出しました。