なぜ医療従事者はここまで神経質にビリルビンの数値を管理するのでしょうか。その最大の理由は、過剰に蓄積した未抱合ビリルビンが血液脳関門を突破して脳の神経組織(大脳基底核など)に沈着し、不可逆的な脳障害を引き起こす「核黄疸(ビリルビン脳症)」を予防することにあります。
現代の周産期医療において、計画的なスクリーニングが行われている日本の産院で核黄疸に至る例は極めて稀です。しかし、退院後に急速に進行した場合、初期症状を見逃すと取り返しのつかない事態を招きかねません。核黄疸の第1期には「元気がなくぐったりしている」「母乳やミルクを吸う力が極端に弱い(哺乳力低下)」「筋緊張の低下」といった漠然としたサインが現れます。これを放置すると第2期へと進行し、甲高い叫び声を上げたり、背中を弓なりに反り返らせる痙攣(後弓反張)を起こしたりして、最終的に脳性麻痺や感音難聴といった重度の後遺症を残すことになります。
保護者が頭に叩き込んでおくべき緊急受診の判断基準は明確です。
- 即日・夜間救急を受診すべき危険サイン:
- 母乳やミルクをまったく飲まず、起こしてもすぐに眠り込んで反応が乏しい。
- 手足の先まで完全に黄色く、白目がみかんのように鮮やかな黄色に染まっている。
- 抱っこしたときにぐにゃぐにゃと力が入らない、または逆に全身を弓なりに硬直させて甲高く泣く。
- 翌日〜数日以内の受診でよいサイン:
- 便の色は濃い黄色や緑色で、母乳やミルクをしっかり飲み、体重も増えている。
- 黄色みがお腹あたりまでで止まっており、日を追うごとに濃くなっていない。
生後1ヶ月健診で黄疸を指摘され「再検査」となるケースも少なくありません。その多くは母乳性黄疸による良性のものですが、再検査では血液検査(直接ビリルビンと間接ビリルビンの分画測定)や尿検査、腹部エコーを行い、胆汁うっ滞性の肝胆道疾患がないかを徹底的にスクリーニングします。医師から再検査を指示された際は恐れずに応じ、客観的な数値で白黒をつける姿勢が重要です。