ネット上の情報空間には、「豚トロは単なる脂の塊であり、体に悪い粗悪な部位である」といった短絡的な誤解が散見されます。しかし、食肉科学の観点から見れば、これは完全な誤謬です。
第一に、豚トロに含まれる脂肪酸組成を分析すると、牛肉などの脂に比べて一価不飽和脂肪酸である「オレイン酸」の比率が高いという特徴があります。オレイン酸は悪玉(LDL)コレステロールを増やしにくい性質を持ち、融点が低いため体内で固まりにくい脂質です。もちろん過剰摂取は高カロリーを招きますが、人工的なトランス脂肪酸や質の悪い硬化油とは代謝経路が全く異なります。
第二の盲点は、「煮込めばどの豚トロでも同じ仕上がりになる」という思い込みです。質の低い原料や下処理を怠った豚トロは、独特の獣臭が残り、加熱しても筋っぽさが解消されません。名店が提供するあの一体感は、丹念な血抜き、ネギや生姜を用いた徹底的な下茹で、そして温度変化によるアク取りの反復という、極めて過酷な仕込み工程を通過して初めて成立する技術の結晶です。