近年、インターネット上で散見される「お願い致しますは完全な誤りである」という極論には注意が必要です。言葉の歴史や実態に鑑みると、これは明らかなミスリードと言わざるを得ません。
戦前の公文書や文豪の名著、あるいは昭和・平成の歴史ある名門企業が交わしてきた手紙を調査すると、「お願い致します」という表記は慣習的な敬語表現として極めて自然に用いられてきました。日本語には、相手に対する誠意や重みを視覚的に示すためにあえて漢字を当てる「文字表現の美意識」が存在するためです。
問題の本質は、「間違いかどうか」というゼロサムの正誤判断ではなく、「現代のビジネスコミュニケーションにおいて、相手にどのような読書体験を提供したいか」という目的にあります。公のルールに厳格な官公庁・教育・出版業界を相手にするなら「お願いいたします」を選択するのが極めて無難であり、一般的なビジネスメールでも平仮名にしておくことで、マナー警察からの理不尽な突っ込みを未然に防ぐことができます。