涙を流した後に目元が膨張する現象は、皮膚科学および眼形成外科学の観点から明確なメカニズムが存在します。最大の要因は、まぶた(眼瞼部)特有の極めて特殊な皮膚構造です。顔面の他の部位の皮膚が約2mm前後の厚みを持つのに対し、まぶたの皮膚はわずか約0.5mmと、ゆで卵の薄皮ほどの極薄構造しかありません。さらに皮下脂肪が極めて少なく、内部が網目状のルーズな「疎性結合組織」で満たされているため、わずかな水分の偏りでも目に見えるむくみとして表面化しやすい脆弱性を抱えています。
号泣している最中、体内では自律神経のうち副交感神経が急激に優位となり、顔面部の血流を増加させます。このとき、眼球周辺に密集するまぶたの毛細血管が大きく拡張します。血管壁の透過性が亢進すると、血液中の水分である「血漿成分(間質液)」が血管の外へと染み出し、周囲の疎性結合組織へと充満していきます。これが、泣くと目が腫れるメカニズムの第一段階です。
さらに見逃せないのが、涙の塩分と浸透圧の物理的作用です。玉ねぎを切ったときに出る反射的な涙とは異なり、悲しみや怒りなどの情動によって流れる涙は、副交感神経の強い刺激によってナトリウムなどの電解質や各種タンパク質を多く含んでいます。分泌された高濃度の涙が眼瞼の皮膚表面や結膜に触れ続けると、浸透圧のバランスが崩れ、細胞間から水分が引き寄せられて局所的な組織浮腫が加速します。
泣き疲れてそのまま横になって就寝すると、日中は重力によって下肢へと分散されていた体液が上半身、特に頭部へと均等に還流してきます。頭部の中でも最も間質が緩いまぶたの組織内に余剰水分が吸い寄せられるように滞留し、翌朝の「パンパンに腫れ上がった目元」が完成してしまうのです。