『Livin' on a Prayer』が生まれた1980年代半ばのアメリカは、レーガン政権下での大規模な経済政策(レーガノミクス)が進められていた時代でした。金融やハイテク産業が急速に潤う一方、製造業や重工業は大きな打撃を受け、いわゆる「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」を中心に大規模な人員削減やストライキが頻発していました。
ニュージャージー州の労働者家庭で育ったジョン・ボン・ジョヴィの経歴を紐解くと、彼の目には繁栄の陰で切り捨てられるブルーカラー層の厳しい生活が克明に焼き付いていたことが分かります。当時のインタビューでジョンは「僕たちはニュージャージーの日常と、そこで暮らす人々の息遣いを歌にしただけだ」と語っています。
ストライキによって職を奪われ、生きる誇りであるギターすら質に入れなければならなかったトミーの姿は、当時のアメリカ社会が抱えていた生々しい傷跡そのものでした。華やかな80年代ヘアメタル・ブームの最中にありながら、本作がこれほど長く愛されている理由は、時代が抱えるリアルな痛みに正面から寄り添った社会性にあります。