航空自衛隊奈良基地を訪れた人がまず驚くのは、戦闘機はおろか、ヘリパッド以外の滑走路設備が敷地内に存在しない点です。一般的な航空基地(千歳、三沢、百里、小松、築城など)はスクランブル発進や防空警備を直接担う実動部隊ですが、奈良基地は「教育専門の基地」として完全に特化しています。
この特異な配置には、明確な歴史的経緯と戦略的役割の分担が存在します。奈良基地が置かれている場所は、戦前の旧帝国海軍大和航空隊の施設跡地などを経て、1956年に航空自衛隊の幹部教育を担う拠点として開設されました。実機を用いた操縦教育は静浜基地(静岡県)や防府北基地(山口県)、芦屋基地(福岡県)などの専用飛行場に集約されているため、奈良では机上教育、リーダーシップ論、戦略戦術研究、規律訓練といった「指揮官としての精神と頭脳の構築」に専念する環境が整えられています。
また、古都保存法や多数の国宝・重要文化財が密集する奈良市街地において、超音速ジェット機の離着陸を伴う広大な飛行場を新設することは環境面・都市計画上も合理的ではありません。静穏な文化環境と豊かな自然に囲まれたこの地こそ、将来の部隊指揮官が思索を深め、高い倫理観を培う教育環境として最適であったという背景があります。