お台場や有明エリアのレジャー施設が軒並み千円単位の入場料を設定するなか、東京都水の科学館が入館料無料を貫き続けている背景には、単なるファンサービスにとどまらない明確な行政目的が存在します。同館の地下には、江東区や港区を中心とした臨海副都心エリアの水を支える現役の重要インフラ有明給水所が直結しており、施設そのものが東京都水道局の基幹拠点の真上に建てられています。
東京都水道局の事業説明資料や広報関係者の証言によると、本施設の主目的は「生活に不可欠な水道インフラへの理解促進」と「震災時における応急給水拠点機能の認知」にあります。蛇口をひねれば当たり前に飲める水道水が、どれほど高度な技術と水源林の保全活動によって守られているのかを次世代に伝えることは、将来的な水道事業への信頼と投資価値を維持するための重要施策です。つまり、来館者から直接料金を徴収する独立採算ビジネスではなく、長期的な公共教育投資として水道事業会計から予算が投じられているからこそ、誰でも無料で利用できる贅沢な環境が成立しています。
現代の都市生活において、地中に埋設されたパイプラインや巨大ポンプの存在を意識する機会はほとんどありません。見えないライフラインを可視化し、自然科学の好奇心へと変換して市民に還元する広報戦略の結晶が、この「無料の本格科学館」という形をとって結実しているわけです。