哀愁漂うイントロと、聴く者の情景を鮮烈に呼び起こすメロディ。桑名正博さんの代表曲として名高い『月のあかり』は、1978年12月にリリースされた名盤アルバム『テキーラ・ムーン』の収録曲として世に放たれました。のちにファンの熱狂的な支持を受けてシングルカット(再レコーディング版などを含む)され、生涯を通じて桑名さんが歌い続けた魂のバラードです。
ネット上のQ&Aサイトなどで頻繁に見受けられるのが、「下田逸郎が原曲で桑名正博はカバーではないか」「元ネタとなる海外曲があるのではないか」という憶測です。しかし、公式クレジットおよび音楽制作記録を紐解くと、その構図は明確に判明します。
本作の基本クレジットは「作詞:下田逸郎 / 作曲:桑名正博」。つまり、メロディの生みの親は桑名正博さん本人であり、そこに類まれなる言葉の息吹を吹き込んだのが、フォーク界屈指の吟遊詩人・下田逸郎さんでした。当時、ロックバンド「ファニー・カンパニー」の活動を経てソロシンガーとしての表現領域を広げていた桑名さんは、都会の夜の匂いとR&Bのエッセンスを融合させた独自のバラードを渇望していました。そこに、叙情詩的な世界観を持つ下田さんとのセッションが重なり、奇跡的なケミストリーが生まれたのです。
下田逸郎さん自身も後に自身のアルバムでこの曲をセルフカバーしているほか、ライブでも披露しているため、「下田バージョンが原曲なのでは?」と錯覚するリスナーが後を絶ちません。しかし、厳密なオリジナル・リリースは桑名正博さんの『テキーラ・ムーン』であり、桑名さんの情感豊かなハスキーボイスを前提として紡ぎ出された楽曲であるというのが歴史的事実です。