「今年のインフルエンザは熱が出ない?」という不安の声に対し、臨床現場のデータは冷徹な事実を突きつけています。アイシークリニック渋谷院をはじめとする都内主要クリニックの臨床報告によると、2024年から2026年にかけて、明らかな発熱(38度以上)を伴わない軽症例や非定型例の相談件数が前年同期比で約20%増加しています。さらに、感染者の約16%はほぼ無症状のまま経過し、家庭内感染に限れば濃厚接触者の約6割が高熱を発しないまま感染しているという調査データも存在します。
高熱が出ないまま推移する背景には、医学的・環境的な3つの決定的な理由が存在します。
第一の要因は、予防接種後のインフルエンザ症状における免疫の「先制防御」です。ワクチンを事前に接種していた場合、体内の獲得免疫(中和抗体や細胞性免疫)が侵入したウイルスを迅速に捕捉し、ウイルスの爆発的な増殖を初期段階で食い止めます。高熱とは本来、免疫細胞が活性化するために自ら体温セットポイントを引き上げる生体防御反応ですが、抗体があらかじめ機能していると過剰な炎症反応を起こす必要がなくなり、結果として「微熱や平熱のまま倦怠感だけが続く」という状態が生まれます。
第二の要因として挙げられるのが、インフルエンザB型で熱が出ない理由に関わるウイルス自体の生物学的特性です。一般的にA型(H1N1、H3N2)は急激な高熱と悪寒を伴いやすい一方、B型は局所での増殖スピードが比較的穏やかで、高熱に至らず37度前後の微熱や、下痢・腹痛・吐き気といった消化器症状が前面に出る傾向があります。2026年シーズンは春先にかけてB型の混合流行が確認されており、これが「風邪や胃腸炎と勘違いする患者」を増大させる一因となっています。
第三に、新型コロナウイルスの5類移行以降、数年間にわたり多様な呼吸器感染症に繰り返し暴露されたことで、成人の基礎免疫応答が複雑化している点が専門家から指摘されています。断続的な免疫刺激により、発熱機構がフル稼働しないままウイルスと膠着状態に陥るケースが増えているのです。