広島市内にお好み焼き店は1,000軒以上存在すると言われますが、その中でも「へんくつや」が放つ個性は極めて鮮明です。屋号の由来にもなっている「へんくつ(偏屈)」という言葉は、頑固一徹に自らの信じた味と焼き方を曲げない初代の職人魂に端を発しています。流行に流されず、奇をてらった創作に走ることなく、基本の工程をミリ単位で突き詰めてきた姿勢こそが、地元客の厚い信頼を勝ち得てきた最大の要因です。
一般的な広島のお好み焼きが濃厚で甘みの強いオタフクソースをベースにする傾向があるのに対し、へんくつやのお好み焼きは独自ブレンドの特製ソースを使用しています。フルーティーな甘みを持ちながらも後味にスッと抜ける爽やかなスパイス感とキレがあり、ボリューム満点の一枚であっても最後まで重さを感じさせずに完食できる設計になっています。
さらに特筆すべきは、キャベツの水分コントロールと麺の焼き加減です。極細の中華麺を出汁でほぐしながら鉄板で丸く整え、表面を適度にカリッと焼き締めつつ、内側にはしなやかさを残します。たっぷりの千切りキャベツは生地の中でじっくりと蒸し焼きにされ、野菜本来の自然な甘みが凝縮。職人がコテ(ヘラ)を巧みに操り、無駄な力をかけずに素材の旨味を閉じ込める一連の所作は、まさに円熟のカウンターエンターテインメントと呼べます。