この凄惨な事件を語る上で、日本中が心を揺さぶられ続けているのが、夫である高羽悟さんの生き様です。事件当時、30代半ばだった悟さんは、愛する妻を突如奪われ、遺された2歳の息子を男手一つで育てる過酷な現実に直面しました。その悟さんが下した並々ならぬ決断が、現場アパートの現在に至る長期賃貸契約の継続です。
事件が発生した名古屋市西区稲生町のアパート2階の一室。警察の現場検証が終わり、退去するのが通例である中、悟さんは「ここを解約してしまえば、奈美子がそこで生きていた証拠も、犯人が残した空気もすべて消え去ってしまう」「犯人が捕まったとき、現場を見せて自らの罪の重さを突きつけたい」という一心で、毎月欠かさず家賃を振り込み続けてきました。2026年現在までの27年間に投じた家賃と管理費の総額は、優に2,000万円を超えています。
特番インタビューやドキュメンタリー番組のカメラが捉えた室内の光景は、静寂そのものです。机の上に置かれたままの日用品、奈美子さんが使っていた化粧品や家具、あの日から時を止めたカレンダー。室内に積もる埃を払うたび、悟さんは「奈美子の無念を風化させてはならない」と己を奮い立たせてきたと語っています。凄惨な記憶が染み付いた空間と向き合い続けることは、精神的にも経済的にも想像を絶する苦痛です。それでも悟さんが現場を維持し続ける姿勢は、警察の捜査幹部や全国の支援者を突き動かし、未解決事件捜査の象徴的な光景となっています。