凶悪事件のニュースが連日報じられると、SNSやネット掲示板(5chやYahoo!コメントなど)では瞬く間に次のような声が拡散します。「今の日本は昔よりはるかに物騒になった」「どこを歩いていても命の危険がある」。しかし、こうしたネットの反応と世間の声には、客観的事実との間に決定的なギャップが存在します。
警察庁が毎年発表する犯罪白書および統計データを確認すると、日本の殺人事件の認知件数は昭和中期から平成初期にかけて年間1,500〜2,000件前後で推移していたのに対し、近年は年間800〜900件前後と、統計上はほぼ半減しています。つまり、「発生頻度そのもの」は過去最低水準を更新し続けているのが揺るぎない現実です。
では、なぜ世間は「治安が急激に悪化している」と錯覚してしまうのでしょうか。その最大の要因は、情報流通の圧倒的スピードと「犯行の細部が可視化される仕組み」にあります。防犯カメラの映像がSNSで無制限に拡散され、事件発生から容疑者確保までのリアルタイム情報が数分単位でタイムラインを埋め尽くします。さらに、犯行の手口が従来の「暗がりの犯行」から「昼下がりの商店」「閑静な住宅街の一軒家」へと生活圏に侵食しているように見える心理的錯覚が、体感治安の急激な悪化を引き起こしているのです。