ネット検索で「歴史学者」と入力すると、関連ワードに「儲かる」「年収」といった言葉が並びます。華麗な学問の世界というイメージと、現実の金銭事情とのギャップに多くの人が関心を寄せている証拠です。結論から言えば、「安定した大学教授のポストを得て、ベストセラーやメディア出演を持つ一握りの層は高年収だが、裾野に広がる大半の若手・中堅研究者は経済的困窮と隣り合わせ」というのが偽らざる実情です。
厚生労働省が実施した「賃金構造基本統計調査」(令和5年)などの公的データによると、日本の大学教授の平均年収は約1,075万円(平均月収約67万円)と算出されています。歴史学分野であっても、国公立大学や有力私立大学の正教授に着任できれば、世間一般の基準を大きく上回る高水準の生活基盤が保証されます。定年まで安定した身分が守られ、科研費(科学研究費助成事業)などの外部資金を獲得しながら自らの知的探求に没頭できる環境は、極めて恵まれた境遇といえます。
しかし、この数字はあくまで過酷な競争を勝ち抜いた「勝者」だけの平均値にすぎません。同じ大学組織であっても、助教や講師クラスの初任給は月額28万〜35万円前後(年収450万〜550万円程度)からスタートするのが通例です。さらにその手前に位置する任期付きの博士研究員(ポスドク)や、複数の大学を渡り歩く非常勤講師になると、年収は200万〜300万円台にとどまるケースが珍しくありません。
「本を出せば印税で潤うのではないか」という期待も、人文系の学術出版においては幻想に近いです。専門書は部数が800部〜1,500部程度にとどまることが大半で、印税率は8〜10%が標準です。3,000円の学術書が1,000部売れても、著者の手元に残る印税は税引き前でわずか24万〜30万円にしかなりません。執筆に費やした数年間の労力と史料収集にかかった旅費を考慮すれば、収支は大幅な赤字です。一般読者向けの歴史新書が数十万部のベストセラーになるか、メディア出演料や講演料が継続して入るごく一部のタレント学者を除けば、「歴史研究だけで莫大な富を築く」ことは原理的に不可能に近い構造となっています。