WEB検索や愛犬家コミュニティで頻繁に囁かれる「短くカットすると毛が生えてこなくなる」という噂は、都市伝説ではなく獣医学的根拠のある明確な事実です。特に夏場に全身をツルツルに剃り上げるペキニーズサマーカット失敗事例の背後には、被毛の生え変わりメカニズムが深く関わっています。
このペキニーズ毛が生えない理由の核心にある病態が、獣医学用語で「毛周期停止(アロペシアX)」あるいは通称ペキニーズバリカン脱毛症の真相として知られるクリッパー脱毛症(Clipper-induced Post-clipping Alopecia)です。ペキニーズの被毛は、太く硬いオーバーコート(上毛)と、保温性の高い密生したアンダーコート(下毛)からなるダブルコート構造を持っています。バリカンによって短時間で皮膚スレスレまで毛を刈り取ると、外気温や血流の急激な変化によって毛根細胞が「休止期」へと移行し、新たな発毛プロセスが停止してしまいます。
さらに、毛を極端に短くすることで皮膚がむき出しになり、強い紫外線による光線性皮膚炎や毛根への熱ダメージを直接受けることになります。犬は皮膚に汗腺をほとんど持たず、豊かな被毛の層に空気を含むことで外気熱を遮断する断熱構造を持っています。良かれと思って行ったサマーカットが、実際には直射日光を直接皮膚に浴びせ、体温上昇や熱中症のリスクをかえって跳ね上げる結果を招くのです。
一度バリカン脱毛症を発症すると、元の美しい被毛に戻るまでに1年から2年以上の歳月を要することが多く、最悪の場合はパサついたアンダーコートのみがまだらに生え揃い、毛色が変わってしまうケースも珍しくありません。「短く剃れば涼しいはず」という人間側の思い込みが、愛犬の皮膚バリアを破壊する引き金になります。