ミケランジェロ代表作には、為政者への反骨精神や自身の痛切な告白が巧みに隠蔽されています。その代表例が、フィレンツェのシニョーリア広場(現在はアカデミア美術館所蔵)に据えられた『ダビデ像』です。一般的なダビデ像が「巨人ゴリアテの首を刎ねた後の勝利の姿」を描くのに対し、ミケランジェロは「戦闘直前、極限の緊張感の中で標的を見据える一瞬」を切り取りました。異様に大きく造形された右手は、政治的自由を守る市民の「強い行動力」の象徴であり、瞳にはゴリアテへの殺意を込めたハート型の彫り込みが施されています。
また、システィーナ礼拝堂最後の審判は、ローマ略奪を経て混迷を極めたカトリック教会の終末観が漂う大作です。祭壇画の中央下、聖バルトロメオが掲げる剥ぎ取られた人間の皮には、ミケランジェロ自身の歪んだ自画像が描き込まれていることで知られます。神の前に罪深き肉体を晒す自虐的な描写は、芸術史家ジョルジョ・ヴァザーリの記録『画家・彫刻家・建築家列伝』でも触れられている通り、彼が抱えていた深刻な信仰の苦悩と肉体への嫌悪の表れにほかなりません。
彫刻家を自負していた彼が絵画の大壁画を強いられたシスティーナ礼拝堂天井画(『天地創造』)においても、足場の上に立ち、塗料が顔に滴り落ちる苦痛に耐えながら、孤独のうちに作業を完遂しました。晩年にはサンピエトロ大聖堂クーポラの主任建築家を無給で引き受け、崩落の危機にあった巨大建築に力学的な調和をもたらしました。絵画・彫刻・建築の境界を破壊し尽くした彼の足跡こそが、ルネサンス彫刻絵画の極致といえます。