漫画表現の歴史において、衝撃的な展開や悪役の残虐性を強調する手段として性暴力が用いられる例は珍しくなかった。主人公の成長を促す「代償」として、あるいは作品全体に重厚なトーンを与える「アクセント」として機能させてきた側面がある。
だが、その手法に対する評価は決定的に変わりつつある。「単なるショック療法として性暴力が消費されていないか」。そう疑問を呈するのは、コンテンツ表現とジェンダー問題に詳しい社会学者の長谷川由美氏だ。「被害者が被る深いトラウマや尊厳の踏みにじられ方が、物語のテンポや読者の刺激のために軽視される描写が長年放置されてきた」と指摘する。
表現の自由を擁護する立場からは「フィクションの表現まで画一的な倫理基準で縛れば、物語の幅が著しく狭まる」との懸念が根強く上がる。しかし、受容する読者側の心理的安全やトラウマへの配慮が不可欠だという声は、今やマイナーな意見ではない。