アフレコ現場において、炭十郎の登場場面は独特の静けさに包まれていたという。鬼との凄惨な戦いが繰り広げられる世界観にあって、炭十郎が到達していた「透き通る世界」――筋肉の動きや血管の収縮までを見透かす全集中の極致を、声だけでいかに表現するか。現場での演技プランは、徹底した引き算の美学に基づいていた。
関係者の証言によれば、三木はマイクの前で息の抜き方一つにまで細心の注意を払い、無駄な体力を一切使わずに敵を倒す炭十郎の「省エネの極意」を声の表現として再現したという。マイクに乗る僅かな呼吸の音すらも計算し尽くされたその芝居は、共演者をも唸らせる圧巻の領域に達していた。