NHKアーカイブスに残された昭和中期の白黒映像や古い料理番組の台本を精査すると、羊肉受容のグラデーションが鮮明に見えてくる。かつて銀座のサロンで文化人たちが珍重したハイカラな鍋料理は、やがて高度経済成長期のファミリーレストランや大衆酒場のメニューへと裾野を広げていった。
東京女子高等師範学校の講義録や軍の炊事マニュアルにも、大正末期から昭和初期にかけて羊肉の網焼きや鉄板焼きのレシピが散見される。どこか一つの場所で雷鳴のように突然生まれたのではなく、大陸からの帰還者、官民の試験場、そして町場の料理人たちが同時多発的に火花を散らしながら、日本の味覚へとチューニングしていった足跡がそこにある。