2002年10月の受賞発表時、日本中が騒然となった。大学教授や国立研究所のトップ研究者が名を連ねるノーベル賞の歴史において、民間企業の現場エンジニアが選出される例は極めて異例だったからだ。記者会見に作業着姿で現れ、恐縮しながらも謙虚に問いに応じる田中氏の姿は、お茶の間の感動を呼び、「サラリーマンの星」として爆発的なフィーバーを引き起こした。
しかし、この現象の真の価値は単なるメディア狂騒曲ではなかった。組織の歯車と見なされがちだった企業内の開発者が、世界水準のイノベーションを生み出せるという事実を証明したことの意義は計り知れない。日本の製造業が誇る「現場力」と「ものづくりへの執念」が、学術界の頂点とダイレクトに結びついた瞬間であり、企業のR&D(研究開発)に対する投資や人材評価のあり方に根本的な再考を迫る契機となった。