トレーニング愛好家の間で根強く残る「痛みに耐えてこそ筋肉が育つ」という精神論は、現代の生理学においては完全に否定されています。筋肉痛が残っている状態で同一部位に高負荷をかける行為は、筋肥大の観点から見ても明らかなマイナス要因です。
一般的に私たちが経験する筋肉痛の正体は、運動後数時間から翌日以降に現れる遅発性筋肉痛DOMS(Delayed Onset Muscle Soreness)です。運動によって微細な損傷を受けた筋線維とその周囲の結合組織(筋膜など)で炎症反応が起き、ブラジキニンやプロスタグランジンといった発痛物質が筋膜の侵害受容器を刺激することで強い痛みが生じます。
この損傷と炎症のプロセスにおいて、なぜ筋肉痛筋トレ逆効果の理由が明確に説明できるのか、そこには3つの生理学的要因が存在します。
第1に、筋合成の停止とカタボリズム(筋分解)の加速です。筋肉は「トレーニングによる破壊」と「休息と栄養による修復」のサイクルを経て太く強くなります。修復プロセスが完了していない炎症状態の筋線維に再び強い伸張ストレス(エキセントリック負荷)を与えると、タンパク質の同化作用が追いつかず、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加します。結果として筋肉を合成するどころか、筋組織をエネルギーとして分解してしまう現象に陥ります。
第2に、出力低下に伴う刺激強度の著しい減少です。痛みがある状態では、中枢神経系が防御反応として筋出力にブレーキをかけます。本人は全力で挙上しているつもりでも、実際の筋力発揮レベルは通常時の60〜70%程度まで低下することが多くの測定データで実証されています。ターゲットの筋肉へ十分なメカニカルテンション(物理的張力)を与えられないため、単に疲労と関節への負担を溜めるだけの非効率な運動になってしまいます。
第3に、代償動作による重篤な怪我のリスクです。主動筋が痛むと、人間は無意識に他の関節や補助筋を使って重量を持ち上げようとします。スクワットで大腿四頭筋に強い痛みがあれば腰を過剰に丸めて持ち上げようとし、ベンチプレスで大胸筋が痛めば肩関節の前方組織へ異常な負担が逃げます。これが腱鞘炎、肉離れ、関節唇損傷といった長期離脱を招く致命的な怪我の引き金となります。