日本経済史に残る背任スキャンダルとなった「大王製紙事件」の発端は、2010年前後に遡ります。創業家3代目として若くして社長・会長職に就いた井川氏は、海外カジノのVIPルームで行われるトランプゲーム「バカラ」の魔力に取り憑かれました。
バカラは、プレイヤーとバンカーのどちらが勝つかを予想する極めてシンプルなゲームでありながら、1ハンドに数千万円が数十秒で動くギャンブルです。井川氏は手記『熔ける』の中で、勝ったときの全能感と負けたときの屈辱感が脳内麻薬のように理性を焼き尽くしていった心理状態を詳細に告白しています。
巨額の負けを取り戻そうとする過程で、井川氏は大王製紙の連結子会社7社に対し、取締役会の決議を経ることなく総額106億8000万円もの資金を用立てさせました。名目は個人借入金であったものの、担保の提示も曖昧なまま、海外のカジノ口座や個人口座へと次々に送金されたのです。
2011年9月に大王製紙社内の監査によって不正流出が発覚し、東京地検特捜部が捜査を開始。同年11月に会社法違反(特別背任)の容疑で逮捕されました。裁判では懲役4年の実刑判決が下り、最高裁への上告が棄却されて実刑が確定しました。