皮膚科外来を訪れる患者の中で特に深刻なのが、ステロイドで悪化するカビのトラブルです。ステロイド(副腎皮質ホルモン外用薬)は、過剰な炎症反応や免疫反応を強力に抑え込む極めて優れた薬剤ですが、これには「局所の免疫力を一時的に低下させる」という作用が表裏一体で存在します。
真菌感染症に対してステロイドを塗布した場合、皮膚表面でカビと戦っていた白血球や免疫細胞の働きが麻痺します。その結果、カビは何の抵抗も受けずに爆発的に増殖し、角層の奥深くへと侵入していくことになります。
臨床現場で多発している真菌疾患の病態と特徴は以下の通りです。
1. マラセチア毛包炎の症状とニキビとの違い
マラセチア毛包炎の症状は、胸元や背中、二の腕、首の後ろなどに直径2〜3mm程度の均一な赤いブツブツ(丘疹)が多発するのが典型例です。尋常性ざ瘡(一般的なニキビ)とよく混同されますが、ニキビに見られる「面皰(白ニキビ・黒ニキビのような毛穴の詰まり)」が存在せず、すべての皮疹がほぼ同じ大きさ・形状で一斉に出現する点が鑑別の決め手となります。
2. 脂漏性皮膚炎の見分け方と移行リスク
頭皮のフケやかゆみ、眉間や小鼻の脇の赤みとして現れる脂漏性皮膚炎の見分け方では、「湿性フケ(ベタつく黄色い鱗屑)」の有無が鍵を握ります。アトピー乾燥肌によるパラパラとした細かい皮剥けとは異なり、皮脂分泌の多い部位に局在して脂っぽい皮が張り付くのが特徴です。ステロイドを塗ると一時的に赤みが引くため誤用されやすいですが、根本原因であるマラセチア菌を抑制しない限り、薬を中止した途端にリバウンドのように再発を繰り返します。
3. 体部白癬(ゼニタムシ)とカンジダ皮膚炎の特徴
白癬菌が体に感染する体部白癬(ゼニタムシ)は、中央部が治りながら周辺部に向かって円形・環状に赤みが広がっていきます。ステロイドを誤用すると、白癬特有の環状パターンが崩れ、一面に赤みが広がる「インコグニート白癬(ステロイド変容白癬)」へと悪化し、診断が極めて難しくなります。
また、皮膚同士が擦れ合う間擦部に好発するカンジダ皮膚炎の特徴は、真っ赤にただれた病変の周囲に、小さな膿疱や丘疹が衛星のように散らばる「衛星病変(サテライト病変)」が観察される点にあります。