本作の最大の推進力は、失敗続きで崖っぷちに立たされた若手弁護士・宝生エリカ(深津絵里)と、421年間無念の思いを抱えて浮遊していた落武者の幽霊・更科六兵衛(西田敏行)の奇妙な共闘関係にあります。法廷劇としての緊張感を保ちつつ、規格外のユーモアを成立させるため、三谷幸喜監督は登場人物間のコントラストを極限まで計算し尽くしてキャラクターを配置しました。
物語の人間関係は、一見すると複雑な利害関係に満ちています。主要登場人物の関係性を整理すると、法廷を取り巻くダイナミズムが鮮明に浮かび上がります。
- 宝生エリカ(演:深津絵里):亡き名弁護士の父を持つが、本人は連敗続きで後がない弁護士。純粋さと突発的な行動力で裁判を引っ掻き回しながら真実に挑む。
- 更科六兵衛(演:西田敏行):北条家に仕え謀反の濡れ衣を着せられて無念の死を遂げた武将。宿屋「しかばね荘」で被告人に一晩中馬乗りになっていた(金縛りにしていた)ことから、唯一のアリバイ証人となる。
- 小佐野徹(演:中井貴一):徹底した論理主義でエリカを追い詰める敏腕エリート検事。超常現象を真っ向から否定するフリをしながら、過去の個人的な体験から重大な秘密を抱えている。
- 矢部五郎(演:KAN):妻殺害の罪で起訴された被告人。事件当夜は金縛りに遭っていたと主張するが、誰も信じてくれず絶体絶命の危機に陥る。
- 日野風子/日野鈴子(演:竹内結子 二役):殺害された資産家の妻・鈴子と、莫大な保険金を手に入れようと冷酷な策略を巡らせる双子の妹・風子。
- 速水悠(演:阿部寛):エリカが所属する法律事務所のボス。甘い洋菓子とタップダンスをこよなく愛し、独特のマイペースさでエリカを支える。
- 段田譲治(演:小日向文世):六兵衛をあの世へ連れ戻そうと現れる「冥界公安処」の役人。ハリウッドのクラシック名作映画に目がないというユニークな弱点を持つ。
キャスティングの妙において特筆すべきは、深津絵里の「リアクションのリアリティ」です。当時の製作会見やインタビューにおいて深津は、全身特殊メイクを施して圧倒的なアドリブを繰り出す西田敏行の生の怪演を前に「笑いをこらえることこそが最大の過酷な試練だった」と語っています。突飛な設定でありながら観客が物語へ引き込まれるのは、彼女の誠実な困惑と必死なまなざしが、現実世界と幽霊の世界を繋ぐ強固な跳ね橋となっていたからに他なりません。