2014年2月5日に放送されたNHK『ためしてガッテン』の「長引く肩の痛みに喝!」特集は、従来の肩関節だけにアプローチする治療観を大きく覆しました。番組が着目したのは、肩関節そのものではなく、土台となる肩甲骨の可動域不全でした。腕を上げる動作は、上腕骨と肩甲骨が「2対1」の比率で連動して動く「肩甲上腕リズム」によって成り立っています。肩甲骨が背中に張り付いたように固まることで肩関節だけに過度な負荷がかかり、炎症が引き起こされるという構造を分かりやすく可視化しました。
そこで紹介され大ブームとなったのが、いわゆる「ためしてガッテン肩甲骨はがし」や肩甲骨を意識した五十肩ストレッチです。四つ這いになって背中を丸めたり反らせたりするキャット&ドッグ運動や、肘を曲げて肩甲骨を大きく回す体操により、固まった胸郭周囲の筋膜をリリースする手法は、多くの視聴者に劇的な変化をもたらしました。
しかし、放送後に整形外科や整骨院の現場で起きたのは、別の問題でした。番組の体操を「痛みを我慢して強引に実践した」患者が、炎症を悪化させて駆け込む事例が相次いだのです。医学的に五十肩(正式名称:肩関節周囲炎)は、激しい痛みが生じる「炎症期(フリージング期)」、関節が固まる「拘縮期(フローズン期)」、痛みが和らぐ「回復期(ソーイング期)」の3段階を辿ります。ガッテン流のストレッチが絶大な威力を発揮するのは拘縮期から回復期にかけてであり、炎症のピーク時に行うことは火に油を注ぐ行為にほかなりません。