前衛的な文芸映画でみせた狂おしい情念の一方で、巨匠・小津安二郎監督に見出された洗練されたユーモアと気品もまた、彼女の忘れがたい魅力である。『秋日和』において見せた颯爽とした立ち振る舞いと、テンポのよいダイアローグの受け答えは、小津独特の静謐な世界観に新鮮な風を吹き込んだ。
原節子や司葉子といった豪華な共演陣のなかでも、彼女の放つ異彩とモダンな輝きは群を抜いていた。小津監督の求める「定位置の美学」を完璧に理解しつつも、画面の端々に自らのアイデンティティを漂わせる技術は、まさに昭和映画黄金期を支えた大女優ならではの底力である。静と動、気品と狂気の双方を完璧に演じ分ける振れ幅の広さこそが、彼女を特別な存在せしめた理由だ。