ネット検索で「伝説の君が代」と入力した際、多くの人が真っ先にたどり着くのが、2012年3月21日、第84回選抜高等学校野球大会(甲子園)の開会式で行われた国家独唱です。満員のアルプススタンドとグラウンドに立ち込める緊張感の中、マイクの前に立った一人の女子高校生が放ったアカペラの第声は、阪神甲子園球場にいた4万人を超える観衆のみならず、テレビ中継を見守っていた全国の視聴者を完全にフリーズさせました。
その歌唱を披露した人物こそ、当時ノートルダム女学院高等学校3年生だった野々村彩乃(ののむら あやの)氏です。一切の楽器伴奏を排し、春の冷たい浜風が吹きすさぶ中で放たれた圧倒的なベルカント唱法と透き通る高音は、音響機器のリバーブ(残響)を一切必要としない圧倒的な響きを持っていました。当時のネット掲示板やSNSでは「神がグラウンドに降りてきた」「高校生のレベルを完全に超越している」と騒然となり、動画共有サイトに投稿された映像は瞬く間にミリオン再生を突破。これが「伝説の君が代」という言葉が定着する決定的な契機となりました。
しかし、伝説と呼ばれる歌唱は彼女一人にとどまりません。日本の国歌「君が代」は、西洋音楽の長調・短調の枠組みに当てはまらない雅楽の「壱越調(いちこつちょう)」を基盤としており、プロの音楽家であっても音程を保つことが極めて難しい楽曲として知られています。その難曲に対し、独自の哲学と魂を込めて挑んだ表現者たちが、それぞれ異なる文脈で「伝説」を刻んできました。