1990年9月、東宝配給で全国公開された映画『稲村ジェーン』。音楽界のカリスマである桑田佳祐がメガホンを取るという前代未聞のプロジェクトにおいて、最大の焦点となったのは「誰が主人公・ヒロシを演じるのか」だった。
加勢大周は当時、まったくの無名。しかし、オーディション会場に現れた瞬間、空気が一変したという。桑田佳祐が求めていた「どこか不器用で、けれど海風のように純粋な若者」のイメージに、彼の飾らない笑顔と長身のビジュアルが完璧に合致したのだ。劇中で見せたサーフボードを抱える姿や、ノスタルジックな湘南の風景に溶け込む横顔は、映画の枠を超えてカルチャーの象徴となった。
興行収入数十億円を記録するメガヒットに伴い、主題歌『真夏の果実』や挿入歌『希望の轍』のメロディとともに、彼の顔は日本中の街中に溢れかえった。まさにシンデレラストーリーを地で行く熱狂だった。