「彼岸(ひがん)」という言葉は、仏教用語の「波羅蜜多(パーラミター)」の漢訳「到彼岸(とうひがん)」に由来します。私たちが生きる迷いや煩悩に満ちた世界を「此岸(しがん)」と呼ぶのに対し、悟りを開いた極楽浄土の世界を「彼岸」と位置づけています。
太陽が真東から昇り真西に沈む春分・秋分の日は、此岸と彼岸が最も通じやすくなる日と考えられてきました。日本独自の自然信仰や祖先崇拝と結びつき、「西に沈む夕日を拝み、西方の極楽浄土にいるご先祖様に感謝を捧げる期間」として定着した歴史があります。
「おはぎ」と「ぼたもち」の違いと季節の移ろい
お彼岸の代表的なお供え物といえば餅をあんで包んだ和菓子ですが、春と秋で呼び名と製法が異なります。
春は、春に咲く牡丹(ぼたん)の花に見立てて「ぼたもち(牡丹餅)」と呼び、冬を越して皮が固くなった小豆をすり潰した「こしあん」を使うのが基本です。一方、秋は秋の七草である萩(はぎ)の花に見立てて「おはぎ(御萩)」と呼びます。秋は小豆の収穫期にあたり、採れたての柔らかい小豆の皮ごと味わえるため「粒あん」を用いるのが本来の形です。
古来、小豆の赤い色には魔除けや邪気を払う力があると信じられてきました。貴重だった砂糖を使った甘い餅をご先祖へ供える行為は、感謝と敬意の最たる表現だったのです。