アリーナやスタジアムの中央に演者を配置する試みは、ロックとポップミュージックの歴史において常に野心的な挑戦として記録されてきた。その決定的な転換点となったのが、2009年から2011年にかけて世界を席巻した「U2 360° ツアー」である。通称「ザ・クロウ(The Claw)」と呼ばれた巨大な4本脚の鉄骨構造物は、スタジアムのどこからでも視界を遮らない画期的な視覚体験を提示した。フロントマンのボノが円形ステージの外周を疾走しながら5万人のオーディエンスとアイコンタクトを交わす姿は、巨大空間をライブハウスのような親密な熱気へと変貌させるセンターステージ演出の金字塔となった。
この巨大機構をソロアーティストの規模で再定義し、洗練させたのがエド・シーランだ。「+ - = ÷ x Tour(マスマティクス・ツアー)」において、彼はルーパーペダルとアコースティックギター1本を携え、完全に孤立した回転式センターステージに立った。巨大な支柱と円形スクリーンが連動するなか、彼が360度全方位へ向けて繰り出す生演奏は、テクノロジーと人間の生々しいエモーションが見事に調和した瞬間だった。一握りのメガスターだけが挑むことを許されたこの舞台形式は、いまや音楽カルチャー全体の標準を塗り替えつつある。