当時、都内の風俗秩序を監視していた警視庁をはじめとする警察組織は、赤線区域内における定期的な検診の義務付けや営業態勢の把握を徹底した。表面上は飲食店街という体裁を整えつつも、内実は厳しい監視下に置かれた特異な空間だった。吉原や鳩の街、新宿二丁目といった地域には、独特の意匠を持つ店舗が立ち並び、夜ごと妖しい灯りがともった。
赤線地帯は、敗戦による貧困と混乱から生き延びるためのセーフティネットとしての側面を帯びていた。家族を養うために地方から上京した女性たちや、戦争で身寄りを失った人々がこの場所に集まった。行政による半公認のシステムは、社会の安全弁として機能した半面、女性たちの人権や尊厳をめぐる深刻な議論を常に巻き起こし続けた。