ネット上の掲示板やSNSで定期的にバズを生むトピックの一つに、「山崎パンの社員は自社の製品を食べないらしい」という怪奇譚めいた言説があります。添加物の過剰使用を危惧する自然派言説と結びつけられ、「危険だから現場の人間は避けている」という文脈で語られがちです。
しかし、工場関係者への取材や退職者の証言を丹念に洗い直すと、事実はまったく異なる地平にあります。
実際のところ、各工場の社員食堂や売店では、格安または無償で自社製品が提供されており、現場で働く多くのパート・正社員が日常的にパンを口にしています。ではなぜ「食べない」という噂が生まれたのか。その理由は、添加物の問題ではなく、「製造現場で四六時中パンの甘い香りと油脂の匂いを嗅ぎ続けることによる心理的飽食」に過ぎません。
真夏のラインで大量の菓子パンを検品し続ければ、終業後にわざわざパンを食べたいと思わなくなるのは、人間の生理反応としてごく自然な現象です。現場の実感から出た「もう当分パンは見たくもない」という率直なぼやきが、ネット空間を伝播する過程で歪曲され、都市伝説へと変貌を遂げた典型例と言えます。