ハエが人体を産卵場所に選ぶ背景には、明確な生物学的誘因が存在します。ハエの成虫は腐敗臭や壊死組織から放たれる揮発性アミン類(プトレシンやカダベリンなど)の匂いに強く誘引されます。そのため、適切に処置されていない深い傷口や、糖尿病合併症による足の壊疽、末期がんによる自壊創などは、ハエにとって格好の産卵場所となってしまうのです。
寄生された患者が呈する主な症状と病態の進行プロセスは以下の通りです。
初期段階では、患部の不快感や「皮膚の下で何かがモゾモゾと動いている」という特徴的な蠢動感(皮下移動感)を自覚します。幼虫が組織を融解・摂食しながら成長するにつれて、激しい局所疼痛、出血、二次性の細菌感染による高熱や悪臭を伴う膿の排出が進行します。特に耳や鼻などの体腔内に寄生された場合、骨破壊を伴いながら頭蓋内へ進行し、最悪の場合は髄膜炎や敗血症を引き起こして命に関わる重篤な事態に陥るケースも報告されています。
日本国内に生息するクロバエ科(ヒロズキンバエ、ケブカクロバエなど)やニクバエ科は主に壊死組織を好みますが、熱帯中南米に生息するヒトフケバエ(ヒフバエ)やアフリカに生息するヒトクイバエ(ラセンウジバエ)などは、健全な皮膚を食い破って深部組織へ潜り込む侵襲性の高い性質を持っています。海外渡航歴のある旅行者が現地で感染し、帰国後に皮膚から幼虫が発見される輸入症例も年間数件単位で確認されています。