明治33年(1900年)、文部省唱歌として発表された童謡『花咲爺』(作詞:石原和三郎、作曲:田村虎蔵)によって、この物語は全国津々浦々の子どもたちへ定着しました。
冒頭の歌詞「うらのはたけで ポチがなく しょうじきじいさん ほってみれば」によって、「ポチ」という名前が国民的共通認識となりましたが、歌詞を注意深く読み解くと、原話のエッセンスが極めてコンパクトに凝縮されていることが分かります。
民俗学的な観点から特筆すべきは、「臼」と「灰」の呪術的な意味です。古代から中世の日本において、穀物を搗く「臼」は穀霊宿る神聖な器具であり、豊穣を約束する祭具でした。また、「灰」は作物の肥料(草木灰)として農業に欠かせない再生のシンボルです。作物が枯れ果てる冬に灰を撒いて花を咲かせる行為は、大地に生命力を呼び戻す春の予祝儀礼(田遊びや花祭り)そのものであり、単なる手品や手柄話ではない農耕民族の死生観が宿っています。