関節鳴らしを語る上で欠かせないのが、米国の医師ドナルド・L・アンガー博士(Dr. Donald L. Unger)による、半世紀以上にわたる自己実験です。この調査は、常識とされていた俗説に強烈な一石を投じました。 アンガー博士は幼少期に「指を鳴らすと関節炎になる」と母親から叱責されたことを疑問に思い、自らの身体を使って検証を開始しました。なんと60年以上にわたり、左手の指関節だけを毎日最低2回ポキポキと鳴らし続け、右手は一度も意図的に鳴らさないという徹底した比較対照実験を敢行したのです。 累計3万6,500回以上鳴らした左手と、鳴らさなかった右手を詳細にレントゲン撮影し、医師による診察を行った結果、左右の手のどちらにも変形性関節症のリスクや症状は見られず、骨の変形にも差は認められませんでした。博士はこの功績により、2009年に「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られるイグノーベル賞(医学賞)を受賞しています。 このドナルド・アンガー研究は、「指鳴らし=将来必ず重篤な関節炎になる」という短絡的な恐怖論を鮮やかに否定しました。 ただし、アンガー博士の報告はあくまで「1人の被験者におけるエックス線上の関節炎発症の有無」に焦点を当てたものです。個人の体質、鳴らす際の力の強さや角度、軟部組織の厚みの微細な変化までは網羅されていません。後続の集団研究においても関節炎リスクとの相関は否定される傾向にありますが、次の章で触れるような「日常の実感」との乖離は依然として残されています。
指をポキポキ鳴らすと太くなる噂の真相|医学的根拠と関節の真実
•
•
1分で読める