華麗な映像の裏側は、危険と隣り合わせの過酷な撮影現場でした。必殺シリーズ特有の陰影の濃いライティング(光と影のコントラスト)を実現するため、スタジオ内は徹底してスモークが焚かれ、高所での作業が日常茶飯事でした。特に組紐屋の竜は、天井の梁の上や屋根裏からのアタックが多く、命綱なしに近い状況でのワイヤーワークを強いられていました。
続編となる『必殺仕事人 激闘編』(1985〜1986年)の撮影中、決定的なアクシデントが発生します。高いセットからの着地シーンにおいて、京本政樹は右足を激しく負傷。診断結果は複雑骨折という全治数ヶ月の重傷でした。通常の連続ドラマであれば即座に降板、あるいは長期の撮影休止を余儀なくされる局面です。
関係者の手記や当時のインタビューによると、主演の藤田まこと(中村主水役)は病室を見舞い、若き京本の覚悟を静かに見守ったとされます。京本は「竜という役を誰にも渡したくない、現場を止めるわけにはいかない」と医師にギプスを極力細く巻かせ、着物で隠せるよう細工を施してわずか数日で現場へ復帰。立ち回りが不可能な期間は、上半身のみのアップや梁の上に座った状態でのカット割りを監督陣と工夫し、激痛に顔色ひとつ変えずに冷徹な竜を演じ切りました。この執念とプロ意識が、スタッフや大御所俳優たちの信頼を勝ち取り、伝説としての「組紐屋の竜」を不動のものにしたのです。