映画のタイトルと同名で大ヒットを記録した南佳孝の主題歌「スローなブギにしてくれ (I want you)」は、日本のシティポップおよびロック史上に燦然と輝くマスターピースです。作詞を手掛けたのは当代随一のヒットメーカー・松本隆、作曲は南佳孝自身が手掛けました。
「Want you〜 俺の肩を抱きしめてくれ」というあまりにも有名なイントロで始まる歌詞の意味を深く読み解くと、男女の甘いランデブーではなく、都会の孤独に押しつぶされそうな男がすがる「束の間の温もり」が描かれていることが分かります。激しいロックではなく、あえてスローテンポな「ブギ」を求める心理。それは、時代のめまぐるしいスピード感や消費社会の狂騒から少しだけ速度を落とし、お互いの体温だけを確かめ合いたいという、刹那的で切実な逃避願望そのものです。
そして、その浮遊感を象徴するのが、作中に登場する印象的なロケ地・撮影場所の数々です。米軍横田基地を抱える東京都福生市(国道16号沿い)のアメリカンハウスやダイナー風の街並みは、フェンス越しのアメリカを肌で感じさせた80年代カルチャーの聖地でした。さち乃とゴローが疾走する第三京浜道路の保土ヶ谷インター周辺や、埋め立て前の荒涼とした横浜・本牧の埠頭。これらのロケーションが醸し出す「どこにも行けないが、どこかへ行きたい」という閉塞と解放の同居こそが、フィルムに独特の空気感を吹き込んでいます。