全国各地に瓦せんべいを名乗る菓子は点在しますが、神戸などのサクサクとしたカステラ風味を想像してくつわ堂の一枚を口に運ぶと、その衝撃的な噛みごたえに度肝を抜かれます。なぜ、くつわ堂の瓦せんべいはこれほどまでに硬いのでしょうか。その最大の理由は、原材料の構成と独自の焼成プロセスにあります。
一般的な焼き菓子では、生地の伸びや口どけを良くするために適度な水分や膨張剤(重曹など)を用います。しかし、くつわ堂の伝統製法では水を一切使用しません。主原料となるのは上質な小麦粉と新鮮な鶏卵、そして香川県特産の讃岐和三盆糖の原糖である白下糖(しろしたとう)です。水分を極限まで排除した極めて硬い生地を職人が丹念に練り上げ、気泡を抱き込ませない密実な状態を作り出します。
さらに決定的なのが、熱伝導率の高い特注の分厚い鉄板に挟み、強烈な圧力をかけながらじっくりと熱を通す焼きの工程です。膨らもうとするわずかな隙間すら許さず、じっくりと焼き締められた生地は、内部に空気孔がほぼ存在しない高密度結晶のような構造へと変化します。この「超高密度成形」こそが、石板を想起させるほどの強度を生み出す物理的真相です。
しかし、ただ硬いだけの焼き物ではありません。噛み締めるほどに口内の唾液で生地がほどけ、讃岐和三盆糖の原材料ならではの上品な甘みと、白下糖の力強いコク、香ばしい卵の風味が幾重にも広がります。硬さそのものが、濃厚な糖蜜の旨味を閉じ込めるための必然的な防壁となっているのです。