白身魚の代表格である魚に、なぜ感情を表す「喜」が添えられたのでしょうか。語源辞典や古文書の記述、民俗学の学説を突き合わせると、主に3つの有力な語源説が存在します。
最も根強い支持を集めているのが「生直(きす)」転化説です。古代日本語において「きす」は「純粋で飾り気がないこと」「生真面目でまっすぐな気質」を指す言葉でした。釣り上げたシロギスの体躯は透き通るような白銀色で、背筋がすらりと伸びています。身には脂っこさやくさみが一切なく、清らかで素直な味わいを持つことから「生直(きすな)魚」と呼ばれ、その実直な美味しさが人に喜びをもたらすことから「喜」が当てられたと伝えられています。
第2の仮説は「祝儀魚(慶事)説」です。江戸時代から明治初期にかけての婚礼や節句の宴席記録を紐解くと、シロギスは鯛(たい)に並ぶめでたい魚として重宝されていました。白銀に輝く姿は清廉潔白を象徴し、貴族や武家、豪商の間で「食膳に上がれば人々が歓喜する魚」として縁起を担ぎ、「魚+喜」の字が定着したという筋立てです。
第3には、魚偏の音を整えるための借字・仮借説があります。中国伝来の魚名漢字に当てはまる文字が存在しなかったため、当時の知識人が響きと縁起の良さを兼ね備えた「喜」を意図的に採用したという見解です。いずれの説においても、この魚が古くから「人を喜ばせる格別の存在」として愛されてきた歴史を物語っています。