インターネット上の掲示板やSNSでは、「船酔いしない人は三半規管が麻痺しているだけ」「感覚が鈍い証拠だ」という誤った言説が散見されます。しかし、耳鼻咽喉科の神経生理学的見地からは、この俗説は明確に否定されます。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米NASAの宇宙酔い研究によれば、宇宙飛行士の選抜試験を通過した非常に優れた平衡感覚を持つエリートであっても、約半数以上が無重力空間で宇宙酔いを経験します。逆に、先天的に内耳機能が完全に脱落している被験者はどれほど激しい揺れに晒されても動揺病を発症しません。
つまり、船酔いしない人は「感覚が鈍い」のではなく、「入ってきた複雑な加速度情報を、脳の小脳を中心とする神経回路が迅速に学習・予測し、感覚のズレを最小化する適応能力(神経適応)が高い」のです。したがって、訓練や経験によって揺れのパターンを脳に記憶させれば、誰でも耐性を後天的に獲得することが可能です。