霞柱・時透無一郎の持つ鍔を観察すると、まず目に飛び込んでくるのが、四隅が切り落とされたような菱形あるいは長方形が幾重にも重なる独自の幾何学デザインだ。この形状は「霞(かすみ)」がたなびく様を抽象化して表現したものと解釈されることが多い。視界を遮る霧や霞は、彼が記憶を失い、自分の過去さえも霧の中に彷徨っていた精神状態と見事にリンクしている。
さらに興味深いのは、そのデザインの変遷とモチーフの由来だ。かつて鍛冶師によって打ち出された刀から、物語の進展に伴い手元へと継承される意志がグラフィックに落とし込まれている。幾何学的な重なりは、無一郎とその双子の兄・有一郎との切っても切れぬ絆、そして絶望の淵から這い上がる決意のレイヤーでもある。無機質に見えた金属の板が、彼の精神的成長とともに「冷徹な天才剣士の刃」から「仲間を想うあたたかな刀」へと意味合いを変えていく過程は、作品屈指の名演出といえる。