松竹株式会社が仕掛ける「シネマ歌舞伎『鷺娘』」は、劇場空間の熱量を映像芸術として再定義した画期的なプロジェクトだ。舞台の殿堂である歌舞伎座で演じられた歴史的名演を、何台もの高解像度カメラで多角的に記録。舞台最前列でも見ることのできない役者の微細な表情や、汗の一滴、衣装の絹糸の質感までもが巨大スクリーンに克明に映し出される。
雪が舞い散る音すら聴こえそうな静寂、激しい立ち回りで乱れる息遣い。映画館の音響システムによって、生の劇場とはまた異なる濃密な臨場感が立ち上がる。演劇興行の枠組みを拡張し、地方都市や海外の映画ファンにまで門戸を開いた功績は計り知れない。それは伝統の記録を超えた、独立した映像作品としての完成度を誇っている。