数々の挫折を経て、直貴は同じ境遇を理解してくれる女性・白石由美子と結ばれ、娘の実紀を授かります。慎ましくもようやく手に入れたささやかな家庭。しかし、加害者家族というレッテルは、世代を超えて幼い娘にまで牙を剥きました。
団地の公園で遊んでいた実紀が、近所の住人たちから「殺人犯の姪」として露骨に仲間外れにされ、泣きじゃくる事件が発生します。直貴自身が受ける理不尽には耐えられても、何も罪のない愛娘が未来を奪われることだけは許せませんでした。この瞬間、直貴の心の中で何かが決定的に音を立てて崩れ落ちます。
これまで直貴は、兄への情愛や罪悪感から手紙の返信を続けていました。しかし、娘を守るためには、世間に対して「自分たちは犯罪者である兄を完全に切り捨てた」という客観的な事実を示すしか道が残されていませんでした。直貴は、兄・剛史に向けて絶縁状となる「最後の手紙」を執筆します。「これがあなたへ送る最後の手紙です」と告げ、二度と連絡を取らないことを宣言したのです。血の繋がった兄弟の絆を自らの手で断ち切る行為は、直貴にとって魂を削り取るような究極の自己防衛でした。