本作の歌詞に深く踏み込むと、80年代中盤の日本を覆っていた狂乱の世相がまざまざと浮き彫りになります。1980年代前半、ファッション誌『JJ』や『CanCam』を発信源として「女子大生ブーム」が巻き起こり、深夜番組『オールナイトフジ』の放送開始によってその熱気は頂点に達していました。女子大生であること自体がステータス化し、高級外車や輸入ブランド品を身につけることが美徳とされた時代です。
サザンオールスターズの『ミス・ブランニュー・デイ』の歌詞では、そうした流行に群がる若者たちの姿が、冷徹な観察眼でスケッチされています。「ブランド・バッグ」「流行りのディスコ」「カタログ化された恋愛観」に身を委ね、自分自身の頭で考えることを放棄した人々。桑田佳祐が痛烈な風刺を浴びせた理由は、個性を標榜しながらその実、最も没個性な集団同調に陥っている大衆の浅薄さへの強い違和感にありました。
タイトルの「ミス・ブランニュー・デイ(Miss Brand-New Day)」とは、直訳すれば「新しい日のお嬢さん」ですが、実質的には「新商品や流行の記号に飛びつくだけの張り子の虎」を意味するアイロニーです。歌詞のふりがな(ルビ)や独特の語感の良さでオブラートに包みながらも、その芯には借り物の価値観で武装する人々への容赦ない批判が込められています。
しかし、桑田佳祐の真骨頂は単なる嘲笑で終わらせない点にあります。流行の波に乗り遅れることを極度に恐れ、虚飾にすがりつく女性の儚さや孤独を、どこか切なく哀愁に満ちたメロディで抱きしめています。風刺でありながら、人間という不完全な存在への深い愛着が通底しているからこそ、この曲は時代を超えた説得力を獲得しています。